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INTERVIEW Vol.01

人のパフォーマンスを上げるデバイスとは

林要 Kaname Hayashi(FOUNDER/CEO)

2つに収斂する
ロボットの役割

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開発中の基盤

GROOVE Xはどのようなロボットを作ろうとしているのでしょうか?

林:やろうとしているのは家庭向けのロボットです。「ロボット」という言葉は、人によって思い浮かべるものがすごく違うんですね。お掃除ロボットを思い浮かべる人もいれば人型ロボットを思い浮かべる人もいる。工場の自動搬送機を思い浮かべる人もいれば、ドローンを思い浮かべる人もいる、自動運転車の人もいる。「生物」と聞いて連想するのが、ヒトだったり、魚だったり、虫だったり、植物だったり、人それぞれなのと同じで、漠然としています。

私はロボットの役割は最終的に2つに収斂するのではないかと考えています。両方がセットになったものもありえますが、大事なのは2つのパートに分かれていることではないかと思っています。1つは「人の代わりに仕事をするロボット」で、もう1つは「人のパフォーマンスを上げるロボット」です。GROOVE Xが取り組むのは後者です。

違いを説明していただけますか。まず「人の代わりに仕事をするロボット」とは?

林:話をロボット以外に拡張すると、「人の代わりに仕事をする」のは家電や自動車、ロボットで言えばドローンなどが当てはまります。共通するのは、人の仕事を減らすためのもので、究極は「存在を感じさせないもの」になります。ドローンがものを運んだり、空撮したりするという結果を期待しているのであって、ドローン自体が発する存在感やブーンというけたたましい音を求めているわけではありませんよね。

洗濯機のような白物家電も、どんどん静かに、コンパクトに、手間がかからない方向に進化して、僕らに存在を意識させないまでになりました。また、かつて憧れの対象だった車は、高価で無駄に大きくて整備に手間がかかって、それにも関わらず、いやそれゆえに憧れの対象だった。どんどん製品の完成度が上がって完成度を高めるに従って、存在感を感じさせない手間のかからない良いツールになった。良かれと思って人様の都合の良いように進化して便利な存在になった。でも、それが愛されるかどうかは別の話なのです。

人のパフォーマンスを
上げるとは?

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何だかちょっとせつないですね。

林:そうですね。けなげというか。そうして「人の代わりに仕事をするツール」のおかげで人は時間とお金を手に入れたはずですが、なぜか現実には時間とお金を持て余している人なんていません。その余裕のできたお金と時間はどこにいったのかというと、ほんのひと昔前には誰もやっていなかったようなことに時間とお金をかけています。女性のネイルアートや、男性の美容院、英会話教室、パーソナルフィットネス。少し前まで存在もしなかったのだから、それがなかったら人間は生きていけないということはないはずです。けれど、みんなそこに時間とお金をつぎこんでいます。それは自己実現の領域と言えるのではないでしょうか。そのように人が自己実現を達成していく事が、結果的にいろいろな面での「人のパフォーマンスを上げる」ことに繋がると私は考えていて、それをサポートするロボットを作ろうと考えています。

「人のパフォーマンスを上げるロボット」とはどんなものでしょう?

林:あくまで利用する人が自ら自己実現を達成する事を助けるためのロボットであって、直接人の代わりに仕事をしてはくれません。意外かもしれませんが、例えばドラえもんはこれに相当します。よく考えてみると、四次元ポケットの中の素晴らしい未来のツールでは、のび太くんは一度も幸せになっていないわけです。むしろそのツールに頼る事でだいたいトラブルが大きくなって、ツールに頼らなきゃよかったとなっている。ドラえもんの映画でも、のび太くんが一番成長するのは、ツールを手に入れた時ではなく、むしろドラえもんを失った時、というのも象徴的です。

ここから言えるのは、人の成長にとって必要なのは、ロボットの助けを借りて直接自分の力を増やすことではなくて、自分自身が良くなるためのきっかけをくれたり、モチベーションだったりを上げてくれる存在なのではないか、とも考えられます。それはコーチングでもセラピーでも基本は同じ。きっかけさえあれば、あれこれ言わないでも人は勝手にスパイラルアップして行く、自浄能力や自己治癒能力があるんですよね。その能力を引き出すツールとして、ロボットは最適なシステムだと考えています。

メンタル面を
サポートするロボット

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著書「ゼロイチ

ロボットが人の自浄能力や自己治癒能力を高めるとは?

林:GROOVE Xには高齢者介護施設で働いた経験のある社員がおりますが、その体験談として、施設のお年寄りは「暇と孤独」という問題を抱えていると聞きました。時間はあるけれど人から必要とされる事がない状態が続くと、人は自己肯定感が下がってしまいます。そうなると自己肯定感を上げるために、承認欲求が強くなります。承認欲求を満たすために、人は何をするでしょうか。たとえば子どもであれば、地面に仰向けに転がって泣きわめく、という方法で注意を向けて貰ったりします。同様に、年配の方も世話をしてくれるスタッフの注目を得て、その手間をどれだけ占有するか、という事が何より大事な関心事になってしまったとしても、それは自然な反応と言えます。

起き上がったり、歩いたりする際に必要な介助の度合いも、入居者の「心の健康度」次第で大きく変わる可能性は否定できません。パワードスーツのような「人の仕事を手伝うロボット」がスタッフの肉体作業をサポートしていくことももちろん重要ですが、同時に私どもはメンタル面から人をサポートしていきたいと考えているのです。

たとえば、このケースでGROOVE Xのロボットができるサポートは、介護者の肉体労働のサポートではなく、入居者の「暇と孤独」という問題を和らげるアプローチがあるのではないか、という仮説を立てています。お年寄りが自己肯定感を上げる事で、介助者に頼る部分を減らして、「自力で起き上がろう、進んで出歩こう」という状態になれるかも知れません。人は初対面の相手に対して、信頼できるようになるまではどこか緊張していますが、動物に対してはその緊張が随分少ないそうです。ロボットに対しても同様に初対面の緊張が随分少ない、という報告があります。そういった部分にロボットの活躍の場があると考えています。

第一段階は「孤独」
という社会課題の解決

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つまり、自己評価が下がった人に元気を取り戻させてパフォーマンスを上げるということでしょうか。

林:それも一面として持っています。しかしGROOVE Xがめざすロボットを表す言葉として、「孤独を癒すロボット」と表現されないように注意していきたいと思っています。確かにそういった機能はありますが、全体像からすれば、それすらも一部に過ぎません。このような紋切り型の表現では、2つの点で私どものロボットを矮小化して捉えられてしまう事を懸念しています。

まず1点目は「孤独」という言葉について。多くの人は孤独を、一人ひとりの個人の問題で、めいめいが自分の状況に合わせて処理すべき問題だと考えがちです。しかし、私は「現代社会に暮らす全員にとっての社会問題」だと考えています。2点目の「癒し」については、「マイナスのものをゼロまで引き上げる」というイメージではないでしょうか。これに対して、GROOVE Xが「人のパフォーマンスを上げるロボット」で目指しているのは、もっとポジティブに「ゼロの状態から更にプラスに伸ばしていく」ことなのです。そういう意味においてGROOVE Xは、「人のパフォーマンスを上げるデバイスをつくる会社」なのです。

「孤独」が「現代社会に暮らす全員にとっての社会問題」とはどういう意味でしょうか。

林:日本では「癒しの時代」と言われて、一足先に現代社会の特徴として取り上げられてきました。海外では「癒しの時代」といった言葉は聞かないのですが、むしろ『孤独の科学』(ジョン・T・カシオポ)に代表されるように、現代社会で「孤独」が発生するメカニズムがちょっとした話題になっています。認知行動学を研究している研究者たちは、人の進化の過程で生き残ったのは、「群れていなければ孤独を感じる」という性質をもった遺伝子を持つ個体だと指摘しています。孤独感は悪者ではなく、身の危険に警鐘を鳴らしてくれるものであり、その性質を十分に持たなかった個体は長い年月の中で淘汰されたと言うのです。私たち生物は「利己的な遺伝子の乗り物」なわけですが、その利己的な遺伝子の目的は自分の遺伝子を増やすことにあります。ただし、利己的な遺伝子を持った個体の性質が利己的になるとは限りません。それは蟻や蜂の生態を見ても明らかです。利己的な遺伝子にとって大事なのは、子孫を残せるかどうかだけであり、そのためには個体は必要に応じて利己的にも、利他的にも進化し得るのです。

私たちホモ・サピエンスでは、狩猟能力の高かった個体は、一狩りに出て肉を獲得しても、独り占めせずに持ち帰りシェアするように、遺伝的性質により操られています。なぜなら遺伝子にとっては、個体が肉を独り占めする事より、その子どもが生き残ることが大事だからです。子育てに10年以上かかるホモ・サピエンスの子どもが生き残るためには、コミュニティが維持されている方が生存確率は高くなる。そうなると子育てをサポートする経験豊かな年寄りの存在も必要になる。言い換えると、生き残るのにちょうどいいサイズのコミュニティ全体が生き残ることが必要になります。

20万年前から
「いいね!」を求めた
承認欲求

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遺伝子が人間の個体をそんな風に都合よく操れるのですか?

林:そういう遺伝子を持っていた種が生き残ったと言い換えるべきかもしれません。20万年ほど前、二足歩行をしていた類人猿は10何種類かいたそうです。しかし生き残ったのはホモ・サピエンスだけだった。しかしホモ・サピエンスが一番頭が良かったというわけではないようです。他の類人猿には、脳の容積だけならより大きいものもいたようです。ではどうしてホモ・サピエンスが生き延びたのかというと、このコミュニティを維持して生き残るシステムがちょうどうまく機能したからではないか、と言われているんですね。

たとえば狩猟能力の高かった個体が肉を独り占めしてしまわないように、人類は「承認欲求」を発達させる必要があったのかも知れません。承認欲求があれば、肉を持って帰る事でみんなに大歓迎され、それを快感に感じるからです。そういうプリミティブなレベルの本能に支えられて集団生活を継続することができ、そのおかげで僕ら人類は生き残って、繁栄を謳歌してきたのです。現代でもその太古からの本能を満足させるために、例えば「いいね!」をつかったりしているわけです(笑)。「いいね!」は、太古からのシェアへのインセンティブである承認欲求を満たすために、極めて合理的なシステムと言えるのです。また同様に、人は何かの理由で集団から孤立すると戻りたくなる。そうやって個体を群れに帰したり帰属させるため、遺伝子が個体に進化させた性質が「孤独」の正体だというのです。

そしてその遺伝子はいまも我々の中にあるわけですね。

林:そうです。核家族化が進んだのはたかだか数百年のことですから、20万年続いた遺伝子からすれば急激すぎる変化で追従できません。そんな短期間では遺伝子の自然淘汰が十分にはおこらないからです。そこで本能レベルでは20万年かけて培った「ちょうど良いぐらい孤独を感じる機能」が今までと同様に動き出すわけです。そうすると、現代の核家族のように、人類が太古から営んできた平均的なコミュニティサイズに比べて小さすぎるコミュニティで過ごすと、太古には生き残れなかったという経験を元に、個体を群れに返そうとして、「孤独」という警鐘を鳴らし始めます。会社で働いていたり、日々社会とつながりのある人はまだしも、家庭に入って外との交流が少ない専業主婦やお年寄りや子どもたちにはしわ寄せがきて、遺伝子レベルで「群れに戻れ」という指令が出てしまいます。それが孤独感となって押し寄せます。遺伝子の生存戦略とライフスタイルがミスマッチを起こしてしまうのです。

「癒しの時代」の原因の一つにストレス社会をあげられる事があります。しかしいま孤独を抱えている人たちが、必ずしもストレスにさらされている生活を送っているわけではない。たとえばリタイヤ後の元企業戦士は、ストレスから解放されて、むしろ有り余る時間を弄ぶほどなのに、孤独で癒しが必要になっていたりする。だから「癒しの時代」の本質はストレスではないと思うんですね。そこで更に「孤独を感じる人は寂しい人」と個人の問題として捉えがちなため、自分の孤独も持て余してしまうわけです。ですが、もはや個人の問題ではなくて、現代社会というシステムが内包する社会問題と捉えた方が正しい。その証拠にSNSやゲームがたいへん流行っています。どれも孤独感や承認欲求を満たすためにちょうど良いものです。そう考えれば、GROOVE Xのロボットを必要とする人は、決して高齢者だけではなく、現代社会に暮らすすべての人が対象になると言えます。

なるほど。確かに「孤独を癒すロボット」という言葉のイメージよりもはるかに大きな社会的需要の存在を感じます。では、それはどんなロボットになるのでしょうか。

林:それを説明するには「非言語」と「無意識」がキーワードになります。

(【Vol.02】ロボットに「無意識」を埋め込む に続く)

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