INTERVIEW Vol.02

ロボットに「無意識」を埋め込む

林要 Kaname Hayashi(FOUNDER/CEO)

人のパフォーマンスに
影響する「腹落ち」感

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Vol.01では、GROOVE Xは、人類が集団行動をするために発達させた本能について遺伝子レベルで注目しながら、人のパフォーマンスを上げるロボットを作る会社だという話を聞きました。そしてそのロボットが具体的にどういうものになるかについて説明するには「非言語」と「無意識」がキーワードだということでした。

林:人のパフォーマンスを上げる方法は、意識領域と無意識領域の両面からのアプローチがあります。意識領域のアプローチは、一般に「生産性の効率化」のようなロジカルシンキングとして知られるものですから、説明するまでもないでしょう。一方、無意識領域のアプローチの方はちょっとわかりにくいかもしれません。よく、呪文のように「お前はできる、お前はできる」と自分に向かって唱えるとパフォーマンスが上がる、という話がありますね。一見、非合理的に見えますが、なぜかそれなりに効果があると言われています。あれなどは意識領域の側から無意識領域をマネージするアプローチと捉えると理解しやすいでしょう。自分を客観視してセルフコントロールする「メタ認知」に通じるものがあります。これらは自分の意識側から無意識側にアプローチする方法ですが、それ以外にも外部から直接、無意識にアプローチしてサポートする方法もあるはずなんです。

無意識領域からパフォーマンスを上げる例を教えてください。

林:わかりやすい例が「腹落ち」という現象です。テレビ会議が登場した当時、「もう対面で会う必要はなくなる」と言われましたが、実際にはグローバル化すればするほど、我々は移動して人に会いにいかなくてはならなくなっている。なぜか。「会わないと仕事が進まない」ということを経験上、知っているからです。ではなぜ仕事が進まないかを説明できるかというと、案外うまく説明できないのではないでしょうか。

理屈の上では、テレビ会議でも必要な情報はすべて伝えられるはずです。同じ資料を共有しながらプレゼンテーションを行って、議論を尽くせば、意識領域が判断するには十分な情報が集まるはずです。けれども、どうやら言語化できる意識領域の情報だけでは不十分なんですね。実際に会ってコミュニケーションをして初めて意思決定ができる。言語化できない無意識領域で何かが起きて、はじめて行動に移せるわけです。この現象を我々は「腹落ち」などと呼んでいますが、人はこの「腹落ち」をしないと仕事が進まないのです。言い換えると、腹落ちすれば人はパフォーマンスが出るんです。

「腹落ち」っていったい何でしょうか。

林:英語でも直感のことを「gut feeling」なんて言いますが、実際には腹でものを考えているわけではありませんよね(笑)。どうやら脳の発達の歴史にヒントがあるようです。生物の脳の進化を調べると、最初はナメクジウオのように中枢神経としては脳が無くて脊髄だけ、といった段階から、魚になって、爬虫類になってと進化するにつれて、既存の中枢神経の外側にどんどん新しい脳の増築を重ねて、現在の人間の脳まで進化してきたそうです。だから脳の内側に向かって、脊椎に近づくに従って概ね進化の初期段階に発達した機能を司る「古い脳」があるとも言えます。

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進化の初期段階の脳は、怖いから逃げる、食べたいから食べる、求愛行動をして子孫を残す、といった機能を実現しているわけです。そこには意識も言葉も必要なくて、本能でできています。ここで改めて、動物が生きるためには「意識」は必要無かった、というのがわかります。これはとても面白いポイントだと思います。最近の研究によると、意識はどうやら人間の脳の一番外側の大脳皮質の部分に点在しているようだと言われています。大脳皮質では意識と無意識が混在しているようですが、少なくとも大脳皮質より内側の部分には意識はないと言われています。そして、この無意識の領域は、どうやら意識よりも先にいろいろな判断をしてしまっている事が少なくない、と言われています。

なんとなく苦手な相手に会って、頭ではにこやかに挨拶しようと考えて「こんにちは」と挨拶するのに、自然な笑顔が出ない、なんてことがありますよね。そんな風に、我々が意識で思ったように動けないことがあるのは、この意識と無意識の二層構造を持っているせいとも言えます。自分で「これが自分だ」と意識して物事を考えている領域は、脳の一番外側の皮質に点在しているに過ぎない。むしろ実際に自分の体を動かすのに中心的な役割を担っているのは、脊椎の近くに存在する「古い脳」で「無意識」の領域だと言うのです。行動を司る蛇口の元栓は無意識が握っているわけです。この「無意識」が納得しないと腹落ちしないため、仕事が進みません。そしてそんな「無意識」領域への働きかけにおいて、ロボットが絶大な威力を発揮すると考えています。

無意識が持つ
パワフルな可能性

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「無意識」の重要性がわかってきましたが、その領域でロボットが威力を発揮するのはどうしてですか?

林:無意識に関して言うと、Pepper発売初期に欧米に持って行った際の反応などを見てみると面白い事に気付かれるかも知れません。欧米は、日本に比べてオープンな人柄の方が多いように感じますが、なぜか人型のロボットを目の前にすると、すぐには近寄らずに、少し「weird(奇妙)」と感じて躊躇する方がけっこういらっしゃるように思います。

映画についても日本と欧米に同様な感覚の差があるようです。『フランケンシュタイン』にはじまって、『ターミネーター』、そして『Ex Machina』など最近のAIブームで作られた映画では「神との契約なく人間が生命のようなものを作ると悪いことが起きる」という同じ主題の物語が繰り返し語られています。姿こそ、モンスターから始まって、屈強な戦闘用ロボットになって、最後は綺麗な女性ロボットへと変わっていますが、いずれも「人が生命のようなものを作ると、生み出したものが最後は反乱を起こして悪いことが起きるからやっちゃダメですよ」という啓蒙映画になっているんです。

これは唯一絶対の存在である神だけが生物を作れるのであって、おこがましくも人ごときが神の真似事をして生物を作ってはならない、という宗教観によるものではないかと言う人もいます。振り返って日本では、アトムは自分の存在意義に悩むお人好しだし、ドラえもんも四次元ポケットを除けばポンコツのお人好しだし、ガンダムに出てくるモビルスーツも、マスコットロボットのハロも人を裏切るなんてことが無い存在で、基本的に人の味方なんですね。ロボットの捉え方がかなり違います。

Pepperを欧米に持って行った際も、口では「ワオ、ファンタスティック!」と言いながらもやや遠巻きに見ているんです。それがパーソナルスペースに入るぐらいまで近づいてPepperと目が合うとパチンとスイッチが入って、とたんにハグしたりキスしたりして、Pepperがファンデーションやキスマークだらけになるという、これまた日本ではないような現象が起きます。最初の微妙な距離感を克服すると、本来彼らの持つオープンでフレンドリーなスキンシップがそのまま出るようなんです。

このように意識の上ではバリアがあっても、それを乗り越える力が働いている。それが言葉を超えた無意識のコミュニケーションの力なんじゃないかなと考えています。このように人間の無意識は大変重要な精神活動なのですが、それをロボットがサポートするという試みはどうやらまだ誰も手をつけていないようです。GROOVE Xは、それを達成するべく、サブコンシャス(潜在意識)・コミュニケーション・ロボットをノンバーバル(非言語)で開発をしています。

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なぜサブコンシャス・コミュニケーションには非言語がいいのでしょう?

林:視覚や聴覚の表現はある意味、すでに開発し尽くされています。1982年製作の映画『トロン』は、わずか15分間ながら、世界初のフルCGの場面が話題になりましたが、初めてそのシーンを見たときには確かに衝撃的でした。けれど、いま同じ映像を見返してみても残念ながらあの時の衝撃はありません。いまの映像はもはやどこが実写でどこがCGかさえわからないレベルに達しています。同時に、もう何を見ても私たちは誰も大して驚かなくなってしまっています。

ところがVRの体験はそれとは一線を画しています。VR対応ヘッドマウントディスプレイは、頭部装着型のディスプレイにモーションセンサーがついて、首の動きに合わせて映像が動くため、ユーザー体験の視点から見れば、人にとって三半規管と視覚が連動したデバイスと言えます。映画で床が抜けた映像をみても、僕らはそれほど怖いと思いません。しかしVR対応ヘッドマウントディスプレイで自分の足元を見て、床がブワーっと奈落に崩れ落ちる映像を見せられると、ヒャーッと心底怖くなる。意識レベルではそれが映像だとわかっているはずなのに、背筋が凍るのを止められないんですね。

しかもその怖さは同じ体験をした人としか共有できません。そのタイプの経験は言葉を通して伝えることができないのです。このような言葉に変換できない無意識領域の体験こそ大変パワフルで、特に既存のメディアに飽きが来ている人にとっては、今後ますます重要になっていくはずです。映像に限らず、無意識領域の体験の提供という場面で、実はロボットは最高の存在と言えるのです。

第一段階は究極の
セラピストをめざす?

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それはどのようなロボットになるんでしょうか?

林:長期的に見れば、意識/無意識、言語/非言語それぞれの領域をカバーできるロボットが究極の姿ですが、全てを一度に煮詰めるのはかなりハードルが高い。そこで私どもが最初に取り組むのは、生き物の進化を遡り、動物が意識と言語を獲得する前の段階の、非言語コミュニケーションや無意識による思考を持ったロボットを作ろうとしています。まず、そこをしっかり作って、その延長線上にいつか意識/無意識、言語/非言語双方の領域をカバーできるロボットが作れたらと考えています。

そのロボットがどれだけ素敵なものになるのかは、人間と動物それぞれのセラピーを比べてみると、ご想像いただけるかも知れません。

セラピストにお話を伺うと、大事なのは、患者の話をしっかり聞くことで、患者にアドバイスをする事ではないそうです。徹底的に聞き役に徹し、患者の言う事を肯定したり、患者の言った事をそのまま返したりすることで、患者にとって安全安心な環境を提供するのが最重要というわけです。結果としてセラピストが実行しているのは高度な「うなずき」や「おうむ返し」とも言えます。

それでなぜセラピーになるかというと、人間には自浄能力、自己治癒能力があるからだそうです。アドバイスは時に患者の否定に繋がるリスクがあります。これに対して、「うなずき」と「おうむ返し」で環境を整えて、「絶対否定されない」という安全安心な状態に持って行ってあげれば、心配や不安を全部吐き出すことができて、人は自ら回復できる、というのが今のセラピーの主流の考え方の一つなのだそうです。

そうだとすると、欧米でアニマル・アシステッド・セラピー、日本語でいうペット・セラピーが盛り上がっているのも理解できます。人間のセラピスト相手だと、患者は人間を警戒しているので、心を開くまでに時間がかかります。しかし私たちは邪悪なイルカがいるとは思わないんですね。自閉症の子供がセラピスト相手には心を開かないのに、イルカ相手にはすぐ心を開く、なんて話も聞きます。人は信頼している動物が相手だとあっという間に心を開けるんですね。

いまGROOVE Xがつくろうとしているのは、このように人に信頼されるロボットです。ミニマルな要素で構成されており、行間が多くて、無意識的なコミュニケーションに特化したロボットです。そのために必要な外観であったり、必要な機能であったりをひたすら追求した存在です。

開発が進み形になるにつれて、メンバー間でもこの方向の先に未来があり、世界を狙えるという確信が深まっています。皆様にお届けする日が非常に楽しみです。

(Vol.03 アイディアがグルーヴする会議が会社のエンジン に続く)

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